VOICE OF
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ペットのいる人

QUESTION VOICE

チノさん(年齢)

茨城県出身、現在は東京都在住。猫を2匹を飼っている。ミケ猫とサビ猫。これまでに避難経験はなし。


アキさん(年齢)

東京在住。アパートでシニア犬を飼っている。これまでに避難経験はなし。

ADVICE VOICE

桐本滉平さん(31)

石川県輪島市出身の漆芸家。8世代にわたり漆に携わってきた家の生まれ。

今回の能登半島地震では、自宅県工房が全焼にあい、自身の飼い猫3匹の捜索をするなかで父親の工房にコンテナハウスを設置し、飼い主とはぐれた猫を保護する「輪島迷い猫捜索プロジェクト」活動に取り組んでいます。輪島市内の60人の飼い主による協力体制で、50匹の飼い猫の救出、80匹にTNR*を実施。保護した猫の数は、100以上にのぼります。

輪島迷い猫捜索プロジェクト
飼い主とはぐれた猫を保護する活動。住宅街に捕獲機を設置し、飼い猫や地域猫を保護。輪島市内の60人の協力体制で、50匹の飼い猫の救出、80匹にTNR*を実施。保護した猫の数は、100以上にのぼる。

*TNR Trap・Neuter・Returnを略した言葉。捕獲期などで猫を捕獲し、不妊・巨生出をおこない、元の場所に戻すこと。

そもそも“一緒に避難”できるの?

まずはどこに避難したらいいかも調べなきゃいけないし、そもそもペットと一緒に避難できるのか、調べたことがない。

犬が老齢なので避難生活に耐えられるか、心配。
猫は一緒に避難できたとして、避難所から脱走してしまう懸念もある。

一応、キャリーケースといつもあげているドライフード、トイレ用品を用意しているくらいの準備...。餌が切れてしまったり、必要な用品が底をついた場合にはどうしたらいいんだろう?あとは、絶対にしておくべきことにはどんなことがある?

震災発生直後には、まずペットと一緒に避難できた人・できない人で大きくわかれます。今回の能登半島地震では、僕のみたところではペットと一緒に避難できた人は1割程度だと思います。

一緒に避難することの難しさは、震災発生時に外出中である、自宅にいても見つからない、といった理由があります。いくら備えていたと
しても、まずは震災時に家にたどり着けるかどうかもわからない。今回の能登半島では、道路が寸断され、火災も起きていたので「家族の人間全員で避難する」というのもまずは厳しい状態でした。

犬は比較的、外出中も一緒に行動している人も多いので、その点では猫のほうが一緒に避難するのが難しいといえます。

僕自身、地震発生時は初詣に家族で車で出かけていたのですが、犬も連れてでていたのではぐれずにすみました。1つ反省は「車に水を積んでいなかったこと」です。
自宅にたどり着いたのは、地震発生後、40時間以上経ってからで、そのあいだは人間6人と犬1匹でもらった水をわけてしのぎました。以来、車に必ず水を積むようにしています。

避難所については、ペット持ち込み禁止*のところが多いので、指定避難所がどういった対応か調べておく必要があります。また、近隣で「ペット同行・同伴・同室の避難所」がどこにあるのかを調べておくといいでしょう。とはいえ、数が少ないうえペットを連れていない方も集まるので、必ずそこに入れる確約はありません。輪島にも一箇所だけあり、僕もいってみましたが、完全にキャパシティオーバーしてしまっていました。

また、ペット同行・同伴・同室のいずれかなのかを把握しておくことも大切です。同行の場合は飼い主と生活空間がわけられ、複数のペットが同じ部屋に避難することになります。持病のあるペットを飼っている場合、餌の内容・タイミング等も変わってきますし、なかにはインスリンを打たなきゃいけないなど、それぞれの事情がありますよね。

避難所の目星をつけたら、一度、自宅からどんなルートがあるのか・どれくらい時間がかかるのかなど、避難訓練を実施しておくのも良いと思います。
避難所では「猫のケージが必要」という人もでてきていました。部屋が割り振られていても自由にできるわけではないので、基本的には他の方に迷惑にならないようにするため、必要なアイテムです。僕らが猫の救助活動「輪島迷い猫捜索プロジェクト」で見つけて引き渡す際には、ケージとセットで渡すことも多くありました。
輪島迷い猫捜索プロジェクトで保護した猫。 保護活動の様子。
あとは物資ですね。ペット用品が緊急支援物資としてすぐに届くことは期待できません。今回、民間やNPOで保護活動をしている人たちが、車1台で大量に積んできてくれるなどの支援がありました。

自分でできることとしてはAmazon(アマゾン)のウィッシュリストの活用、それから地域内にあるお店の対応をチェックする。僕の地域にあるホームセンターは、店舗内が潰れてしまっていましたが軒先にペットフードをだして、すべて100円で売ってくれていました。 アマゾンウィッシュリストで届いた物資。

*1995年の阪神大震災、2011年の東日本大震災では、ペットを連れて避難所に入ることを断られたケースが相次ぎ、国は2013年に「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」を策定し、飼い主と家庭動物等**のペットが共に避難する「同行避難」を推奨する方針を打ち出しました。
この時点では一緒に避難のできる「同行」までで、避難先での過ごし方までの提示ではありませんでした。2016年の熊本地震などの後、飼い主とペットが一緒に避難できる「同伴避難」に取り組む自治体が増えています。現在はまだ数が少ないものの、飼い主とペットが生活空間をともにできる「同室避難」を提供する自治体もでてきています。

**環境省の定めでは、家庭動物等とは、愛がん動物又は伴侶動物(コンパニオンアニマル)として、家庭等で飼養及び保管されている動物のこと。現在のガイドラインは、このうちおもに犬・猫が対象となっているようです。

一緒に避難できなかったら、どうしたらいい?

地震発生時にペットをみつけられず、一緒に避難できなかった場合に、自分で探しにいく以外にどんな行動が取れるのかがまったく検討がつかない。

見つけられない場合、どんなところに連絡して、どこに頼るべき? 一緒に避難できないことに備えて必ずしておくべきことってどんなことがあるんだろう。

猫は種類によっては以外と遠目からだとほとんど区別がつきにくいこともあるから、自分の猫が見つけられるのか、心配。

僕が今回の震災でおこなった輪島迷い猫捜索プロジェクトは、自身の飼い猫を探しているなかで、知り合いの家の猫や地域猫を見つけたこと・猫が見つからないと地域の方から連絡を受け取るようになって、本格的に活動をはじめたものです。

輪島迷い猫捜索プロジェクト
飼い主とはぐれた猫を保護する活動。住宅街に捕獲機を設置し、飼い猫や地域猫を保護。輪島市内の60人の協力体制で、50匹の飼い猫の救出、80匹にTNR*を実施。保護した猫の数は、100以上にのぼる。


だいたい50世帯くらいから「猫がみつからない、助けてほしい」という連絡がありました。今回の能登半島だと17メートルの津波がきたら市街地は全滅するという想定なので、とにかく一旦みんな、人間だけ避難するということが多かった。なかには猫の名前を呼んで必死に探していた方もいらっしゃるんですが、家族が無理矢理連れ出した・土砂崩れが起こり家に土砂が流れてきてギリギリで連れ出した、とかそういうこともよく聞きます。なので、まず「とどまる」というのは得策ではない。となると、あとから探しに行くことになります。

飼い主の皆さんは、猫が家からでている想定で動き回ったりするのですが、それで体調を崩してしまったり、損壊した建物に入って怪我をするなどの二次災害のリスクが増えたりということがあります。

なので、僕自身も現地で会ったプロのレスキューの方に意見を仰ぎ、捕獲期を使っていいということを聞きました。でも実際には捕獲期を平時から持っている人ってほとんどいないですよね。身の回りでいえば、保健所はいくつか貸出てくれました。数に限りがあるので、足りない部分はアマゾンのウィッシュリストを活用して70個ほど支援してもらいました。

被災から1週間後くらい経つと猫たちもお腹がすいているので、捕獲期を置いたら半日くらいで入ったケースも多いです。今回の結果ですが、家猫の場合は、9割がたが家のなか、または家が潰れてしまっている場合はお隣さん、遠くても2件隣あたりをうろついていた、というパターンがほとんど。
保護した猫たち。
災害時は「いまはペットよりも人」といった論もやっぱりありますよね。だけど、飼い主であればわかると思いますが、一心同体の存在です。見つかるまで探す、見つからなければ被災地から動きたくない。危ない場所を自分で探してまわるといったことをはじめ、ペットをないがしろにすることで二次災害のリスクがあがります。ペットを救うことが人を救うことにも繋がるという事実が、広まるといいなと思います。

実際に僕の周りにも、ペットがみつかれば安心して一旦被災地から離れる、二次避難先をみつけて移動するという選択が取れる、という声もよく聞きました。

そして、最大の自衛としては、マイクロチップをいれておくこと、そのマイクロチップの情報を手元に用意しておくこと。

これは人間同士のトラブル回避にも繋がります。保護された際にチップが入っていれば「飼い猫」であることがわかりますし、見つかった際に自分の猫であることを保証できます。
僕は、スマホのメモに残してありました。紙に書いて保存している人もいましたよ。
マイクロチップからは、名前は確認できますがそれ以上の情報が(獣医師さん等、探知機でチップを探知し情報を確認できる人から)得られる場合は限られています。マイクロチップには、名前と電話番号を登録しておくとスムースかもしれません。

また、被災地で動物を保護した団体によって保護猫・犬の譲渡などもおこなわれていますが、マイクロチップが入っていることで、尚早・無闇な引き渡しを阻止することができます。

避難生活が長引く場合に想定しておくことは?

災害時の二次避難先の想定や、そういったところに入れない場合の預け先があるといい、ということも調べたことがあるけれど、いざという時に見つかるものなのかが心配。

そうなった場合、ペットと一緒にどのように暮らしていける?飼い猫が結構お年寄りなので、体力・精神的な部分でも心配。

ペットを見つけたあとに「二次避難先をみつける・移り住む」こと。今回わかりましたが、これがとても大変です。これは、被災生活での課題になってくると思います。

今回でいうと、輪島には民泊が少ないというのがありますが、金沢市までみても、ペットOKの物件がとても少なかった。県内にあったとしても、
結構離れた場所の一軒家になってくる。仕事がない・貯金を切りくずしている生活のなかで、敷金礼金をすぐに用意してその手続きをして、というのは、人によっては時間的にも体力的にも難しいこともあるます。

あとは、二次避難先の目星がついても、仕事をしているから(被災地から)動けない、という理由もあります。勤務先から通えない距離の二次避難先となると、現実的ではなくなってきますよね。

僕自身の身の回りにもそういった方が多く、車中泊を2ヶ月、2ヶ月以上続けている人もいました。

今回、僕は太陽光発電を搭載したトレーラーハウスを友人のツテで手配しました。ペット同伴避難、物資を置く、保護した猫の居場所などで、トータルで7棟。はじめは個人名義で契約して、後から支援金を募り、支援していただきました。 トレーラーハウスの設置。 トレーラーハウスの中。まだ空の状態。 トレーラーハウスの中、保護猫でうまった。
ペットが見つかったあとも「車中泊」では、その次の生活を考えるというのもなかなか厳しいと思いますので、この中間として機能するような場所が増えるといいですよね。

今回、場所がある、というのはとても重要だと実感しました。トレーラーハウスのほかに、インスタントハウス*も開発者の教授に相談し設置していただき、その2つの拠点があってこそ活動できました。

保護した猫の診療・避妊手術などもハナコプロジェクト**さんに協力していただき実施しましたが、それも場所があったからできたことです。
トレーラーハウスにて。診療中。 インスタントハウスでも、診療・手術をおこなった。内観。 インスタントハウス外観。
診療・手術のプロセスでは、手術してあることがわかれば飼い猫の可能性が高いので、その情報共有をして元の飼い主さんのところに戻すといったこともできました。

あとは、たとえば仮設住宅にあたった方から「猫が逃げちゃった」という連絡もいくつかありました。ここでも、ケージの用意をしておくとよいと思います。

*インスタントハウス 頑丈さ・断熱性に優れた簡易住宅。開発は名古屋大学の北川啓介教授。
**ハナコプロジェクト 飼い主のいない犬・猫の医療費を支援する一般社団法人の団体

情報交換はどこでしたらいい?必ずしておくべきこと。

避難所では人の生活に関することなら情報がありそうだけれど、ペットに関する支援物資の情報とかはどこで得られるんだろう?

僕らの保護猫活動がワークした一つの大きな要因は「ペットを飼っている人のコミュニティがあったこと」。これは田舎ならではかもしれませんが「どこどこの誰々さんがなにを飼っている」というのをなんとなくみんな把握しているんです。

普段から「あなた猫何匹飼っているの?」といったコミュニケーションがありましたし、
そのうえでの信頼関係がありましたから、今回の被災時に信頼できるLINEグループをつくることができました。60人ほどいるLINEグループで「今日ここにエサがあります」とか「何時にここにペット用品の支援物資が届きます」といった情報共有をしたり、探している猫・目撃情報を共有したり。
都内ではなかなかそういった信頼関係のあるオンラインコミュニティをつくるのは難しいかもしれませんが、まわりでペットを飼っている人との交流が普段からあると、被災時の対応はまったく変わってくると思います。

これは備えではないですが、避難所で対面する人同士でその場でコミュニティをつくるよう働きかけることも有効だと思います。今回も、結局アナログでの掲示板が機能していました。スマホも電池が切れたままといったこともあるなかで、避難所で「誰々さんが無事か心配しています」「私は無事です」といったことを書き記して情報交換をして。それはペットにも応用できると思います。

信頼できそうな人たちであれば、ペットの飼い主さんのコミュニティは助け合いの気持ちも強いですから、とても心強い相互関係になれると思います。

ADVICE VOICE

桐本滉平

漆芸家。1992年石川県輪島市生まれ。「生命の尊重」をテーマとし、漆、米、麻、土などの循環する素材を用いて創作活動を行う。