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LGBTQ+

QUESTION VOICE

Pon さん

大阪出身、現在は東京都在住。トランスジェンダー女性。被災経験はこれまでにないため、避難から避難先についてまでいろんなQボイスがあるようです。

ADVICE VOICE

松岡宗嗣さん

愛知県名古屋市生まれ、現在は東京在住。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信。災害時においてLGBTQ+が直面する困難は命に直結する問題であるとして、防災についてはやくから重要な観点の一つとして扱ってた松岡さん。能登半島の地震においては災害時のLGBTQ+における困難をまとめた記事を2日後には公開し、率先して情報共有をおこなっています。

そもそも“避難”のときにでてくる問題って?

被災したことがないため、そもそも「自分が避難する先」もわかっていないかも。よく考えてみたら、避難先にはどんな人がいるかわからないことも不安。

災害時にLGBTQ+の人が抱える課題で最も多い一つに、まず「避難ができない」ことがあります。避難所に行くことによって、性的マイノリティであることが露呈してしまうのではないか、という恐れによるものです。地域の方に向けてカミングアウトしていない、共に暮らしている同性のパートナーと一緒に 避難したらどうなるか、といった不安の声があります。

その場合には、少し離れた知人の家に避難するといった対応をとる人もいます。避難所にいけない場合を想定して、近隣や遠方の頼れる人をあらかじめ見つけて連絡しておくなどの備えがあるとよいかもしれません。

離れて暮らしている同性のカップルの場合など、被災した際に、安否情報を得られなかったり、居場所など情報の開示範囲が限られることがあります。

これは性的マイノリティに限ったことではありませんが、そういった場合に備えて、

・避難先を決めておく
・緊急連絡先カードを作成し関係性を説明できるようにしておく

といった準備を事前にしておくとよいでしょう。

避難先生活がはじまったら。お風呂やトイレが一番不安かも

トイレが「男」「女」だけだったら、精神的にちょっとキツいかもしれない。
とはいえ、LGBTQ+というカテゴリーを用意してもらっても「そこは使いたくない・使えない」って思う人がいるはず。私自身も、隠しているわけではないけど、公にしているわけでもないし...。

お風呂はやっぱり一番大きな不安の一つです。旅行でも「大浴場には行かない」というトランスの友人も多いです。私も、裸をみせることは普段からありません。上半身だけ裸というのもまったくない。なので、避難生活の際にも「どれだけ人前で裸にならなくて済むか」は大きいポイントになってきそう。

お風呂に関しては「性的マイノリティ向け」といったものではなくて「さまざまな理由で個別でしか裸になれない人」に向けたものがあるといいな、なんて思ったりしました。

たとえば、タトゥーを入れている人、身体に傷がある人、そういった「身体を見せたくない人」に向けて、個別で使えるお風呂、あるいは個別で使える時間があったら...。

そういったものがあれば、自分が自主的に動くことができます。自分が動く選択肢があることで、避難先で生活をともにする人にも不要に不快な思い・いやな思いをさせずにすむというのも安心材料になりそうです。

お風呂・トイレに関する声も、最も多くあがってくる課題の一つです。ただ、これに対しては「LGBTQ+のトイレ/お風呂を用意すればいい」ということではないですよね。そもそもお風呂やトイレに困りやすいのは、シスジェンダーのLGBではなく、トランスジェンダーやノンバイナリーの人々という点からも「LGBTQ+用」 という認識は問題があります。また「LGBTQ+枠」を設けることが、かえってアウティングに繋がる可能性もあるため、当事者には大きな不安があります。

「いろんな人がいる」という事実への解像度を高めて「できるだけ個別のニーズに対応する」という考えが求められると思います。たとえば「男女別に加えて、だれでもトイレを設置する」「個室のシャワーを使える時間を用意する」という対応は、トランスジェンダーやノンバイナリーの人々だけでなく、プライバシーの観点だったり、異性の親子連れ、またはなにか身体的な状況で困難がある人たちも利用しやすくなるのではないかと思います。

自治体によっては、性の多様性に関する職員向けのガイドブックをつくるなどの対応をとっているところもありあます。ただ、そもそも当事者が相談しづらいというハードルが大きくあるため、どういうニーズや困難があるのかを把握することがまずは難しい状況です。そもそも普段から身近にLGBTQ+の当事者がいるという認識を持っていないと、災害時の当事者の直面する困難に気づくことができません。平時から対応指針などにLGBTQ+の視点を取り入れることを含め、以下のような対応が考えられます。

・専門の相談窓口を提示できるようにしておく

・避難所運営においてニーズをすくい上げられるよう、匿名で提出できる目安箱などを設置する

・自治体の男女共同参画推進センター等と連携し性的マイノリティも含めた地域の相談体制を整える

生活支援物資の受け取りも“どこに並ぶ?

私自身ではないけれど、まわりの友人をみていると「ホルモン剤」を受け取れるかどうかはとても大きくなるかも。これが打てないと最低限の生活を送れない人もいるし、鬱になってしまう人も多い。

ただ、これが必需品ということを理解してくれる避難先ってどれくらいあるんだろう...。生活支援物資としてリクエストしていいものなのかもわからない。

あとは、こういった薬剤や性別でわけられた物資を受け取るときにまわりの目を気にしてしまうひともいると思う。受け取るときに「トランス」ってバレちゃったらどうしよう、とか。

こういった物資が届くか届かないかの不安によって、メンタルヘルスに問題を抱えるといったこともありそう。

当事者の中には、避難所での生活にはそこまで困難は感じないといった人もいますが、「自分が必要とする物資を得られなかった」という人もいます。

たとえば、性別適合手術を受けていないトランスジェンダー男性が生理用品を受け取るために列に並んだら、あなた男でしょ、と言われ、胸を触られるという被害を受けたと
いう報道もあります。支援側の対応としては、LGBTQ+向けというよりはここでも個別ニーズを考慮して

・男女で分けない
・男女別の物資支給を見た目で判断しない
・外部から見えないように渡しかたを工夫する

などができるとよいです。

また、性ホルモン剤や抗HIV薬。緊急時は、緊急度の高い薬品や薬剤を中心に避難所への支給がされるため、性ホルモンや抗HIV薬などはすぐに補充されない可能性も高いです。

自衛になりますが、

・自分である程度常備しておく
・防災キットにいれておく

といった準備をしておくとよいでしょう。

能登半島の地震の際には、性的マイノリティの当事者団体が「常備している病院」や「遠いエリアでも(薬の受け取り)拠点となる病院」の情報提供を県に要望書としてだしていました。

情報が集約されているだけでも役立つことは多いです。
支援団体の「GIDリンク」が電話相談窓口をオープンして情報提供をおこなっていました。

*GIDリンク
https://gidlink.info/archives/1526

たとえば個室シャワーが使える避難所の場所など、現地のメンバーが収集した情報をウェブサイトに掲載されていた点が印象的でした。地域の避難所だと男女別が基本になっている際にはトランスジェンダーやノンバイナリーの人がなかなか使いづらい、我慢するといった状況がありますが、情報があれば「ちょっと距離があるけれどあそこに行けば個室を使える」とわかれば、利用しやすくなるのではないかと思います。

知らない人との生活ででてくることは?

普段であれば同じトランスジェンダー、性的マイノリティの友人たちと行動できるけれど、避難所は地域ごと。性的マイノリティは自分だけ、となった場合にはどんな問題が起こるのかがわからないことも、不安です。

もしかしたらひどい言葉を投げかけてくる人もいるかもしれない。仕方ないことだとわかっていても、有事ならなおさら、そういった状況はちょっとこわいかもしれません。

避難所での性暴力、マイノリティへの差別など、災害時は特に弱い立場の人々に対する暴力がより表出しやすくなる可能性があります。たとえば、暴力や差別を許さないという掲示物を貼る、といったことも抑止力になるかもしれません。自衛としては、避難先では複数人で行動することも重要です。

避難先・支援側ができる
こととして、地域のリーダーが多様な視点をもち、平時から防災について考える観点を増やしておくことが重要だと思います。女性や性的マイノリティの人の視点が入ることで、起こりうる被害やその可能性についてまず議論することが必要です。多様な視点が防災に関わる枠組みをつくっていくことが求められます。
マイノリティのニーズや困難について問題提起すると、「緊急時だからしょうがない」「みんな大変なんだから」と言われることがありますが、防災計画をはじめ、どれだけ平時から想定できるかによって、多くの人の避難生活を日常の水準に近づけることができるかが変わってきます。それは「マイノリティだからしょうがない」では決してなく、誰もが「日常生活に近い生活を送れる状態」を整えていく必要があります。

LGBTQ+の災害時の困難というと「特別」のように思われるかもしれません。しかし多くの場合は性的マイノリティに限らない課題や対応ですし、被災者ではあるけれども、同時に、防災や避難、避難生活においてチームの一員・地域のメンバーでもある。LGBTQ+当事者として支援者側にまわることももちろんあります。防災や復興において性的マイノリティが支援者側の視点としても関わっていけるように考えていきたいですね。

ADVICE VOICE

松岡宗嗣

愛知県名古屋市生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、Yahoo!ニュースやGQ、HuffPost等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。著書に『あいつゲイだって - アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など