VOICE OF
(BOSAI) ACTION
airbnb.org

“誰かの家”“私の家”は、
災害のときにどう活用できる?
Airbnb.orgに聞きます

QUESTION VOICE

世界各地では、災害などの有事において、避難・避難生活に困難を抱えやすい人をサポートするために、民泊の利活用がはじまっています。

どうしてAirbnbをはじめ、「民泊」が避難場所として適している?民泊だからこそできていることって?
米国非営利団体Airbnb.org*の最高責任者をつとめ、災害時対応をリードするクリストフ・ゴーダー(Christoph Gorder)氏に、実際の活動を通しての考えを教えてもらいます。


Airbnb.org
(エアビーエヌビー・ドットオルグ):

2012年以来、災害など有事の際に、Airbnbのネットワークとテクノロジーを活用し、ほかの非営利団体、政府機関、再定住支援団体と連携し、一時的な避難先の提供、医療・救護従事者向け宿泊先の提供に取り組んでいる。2020年に米国で非営利団体として設立。独自の理事会をもち、Airbnbからは独立した非営利団体。
https://www.airbnb.jp/e/airbnb-org?c=.pi130.pkairbnb-org

ADVICE VOICE

クリストフ・ゴーダー
(Christoph Gorder)

さまざまな非営利団体、政府機関、事業者と連携し、災害や紛争などの緊急事態発生時に一時的な避難先や滞在先を無償で提供することを目的とした米国非営利団体、Airbnb.orgの最高責任者。
2024年1月の能登半島地震では、二次避難者への滞在先支援をAirbnb.orgが実施しました。これは、アジア太平洋地域で初めての支援となります。

“誰かの家”“私の家”は、災害のときにどう活用できる?Airbnb.orgに聞きます

Airbnb.orgは、有事の際にAirbnbのリスティング(家などの宿泊施設)を活用して、一時的な避難先を提供する支援をおこなっています。2020年の設立からわずか3年で22万人の方に無償で避難先を提供。今日までには135ヶ国で支援をおこない、25万人に避難先を提供。“延べ泊数”にすれば160万泊にのぼります。

活動のはじまりは設立からさらに8年を遡る2012年、ニューヨークを大きなハリケーンが直撃したときに、一人のAirbnbホストが自主的に家を開放するというアイデアによるものだそうですね。

ハリケーン直撃でニューヨークに住む数千人の人が家を失っているなかで、一人のホストからAirbnbのカスタマーサービスに問い合わせがあったんです。「私の家を、家を失くした人に無償で貸したい」と。エンジニアが対応して彼女が実際に家を無料で貸しだすと、他の多くのホストたちがそれに続いたんです。それを機に、Airbnbが災害対応に携わるようになります。

Photo via Airbnb.org
2024年にアメリカ南東部を襲った大型ハリケーン・ヘレーネで、被害を受けた家

災害対応は予測不可能なものも多いために、どちらかというと起きてからの「リアクション」的な部分も大きくなりそうですが、迅速に対応をし続けるAirbnb.orgの活動は「備え」に近い。どのように支援の仕組みを構築してきたのでしょうか?

設立までの8年は、2、3年に一度「大きな災害があれば対応する」を繰り返していましたが、体制や仕組みが整ったものではなく、家を無償提供したいと名乗りでてくれるホストの自主性に頼ったものでした。ですが、この取り組みに大きな可能性を感じていたので、2020年に本格的に仕組み化して規模を拡大しようと動きだしました。

そして、公共慈善団体(=非営利団体Airbnb.org)を設立しました。災害への対応はAirbnbだけで解決できるものでは到底ありません。慈善団体を立てて寄付も募りながら、Airbnbが運営に関わるすべての費用を負担する。家を無償・または割引で貸すというホストの寛容さに頼るだけでは、助けられる人の数は限られてしまいます。ここでしっかりと宿泊代が支払われるとなったら、もっと多くのホストが参加できますよね。

災害時には急速に多くのニーズが発生します。まさにその時に、ホストに家を無償・割引で貸しだせるかを確認している時間はありません。Airbnbのテクノロジーを活用して、数千のリスティングを一気に利用可能にすることで、迅速な対応を実現しています。

一番速いのは、災害時に家を失った人が、Airbnbアカウントに付与されたクレジットを使って、自身で最適な家や場所を選ぶやり方です。たとえば、ペット連れでもOK、車椅子でアクセスできる場所がいい、など。直近では、米国カリフォルニア州ロサンゼルスで起きた山火事の際には、19,000人に避難先を提供しています。

Photo via Airbnb.org
LAの山火事。


Photo via Airbnb.org
LAの山火事の現場にて。クリストフ・ゴーダー氏

災害は予期せぬ時に、また予期せぬことが起こるものだと思います。提供できる支援を最大化、または最適化するために、どのように動いているのでしょうか?

まず、いまは世界各地でたいていはAirbnbを見つけられますよね。つまり、たいていの災害時には、その近隣エリアに必ずAirbnbがあるということです。米国でもそう、日本でもそうです。

常に世界中での災害をモニタリングしていて、災害などが起これば、その地域の非営利団体と組んで動きます。彼らは、地形を含め土
地柄をよく知っていて、その地域の言語を話し、ローカルコミュニティと繋がりがあり、自治体とも関係を築いている。つまり、そのエリアで支援が必要な人を把握できる“中の人”と組みます。特に支援が必要な人・家族を特定して私たちに繋いでもらい、Airbnbのアカウントにクレジットを付与して...という流れです。また、捜索活動や消火活動、出動を要するものに従事する、いわゆる“ファーストレスポンダー”たちにもステイ先を提供し支援します。災害時にその地域にいるエキスパートたちの活動もAirbnbのもつテクノロジーで最大化する、というのが私たちが取り組むところです。

昨年は、自然災害が増加した年でもありながら、旅行が近年で最も活発になった年でした。Airbnbのリスティングが要となるうえで、家などの宿泊施設の提供支援と旅行客への宿泊提供の両立には、問題はありませんでしたか?

特に、気候変動にともなう災害は増加していますよね。干ばつ、嵐、洪水、異常気象...。昨年は1億人の人が家を失っています。つまり、家を必要としている人の数は増えています。
ただ、ここでユニークな構造たりえる所以としては、前提としてAirbnb自体も成長している会社だということです。来年、2年後、5年
後、さらに成長するでしょう。現在ですでに世界中に800万のリスティングがある。その数はさらに増えると思います。支援提供には問題はなく、先述の通り、たとえばロサンゼルスの山火事の際には19,000人に避難先を提供できましたが、ロサンゼルスが特にAirbnbのリスティングが多い土地だということも機能したといえます。

なるほど、ホストの数も拡大していくことによって、有事の支援先も拡大するということですね。災害時の支援は持続可能であることがとても重要だといわれるなかで、持続できる・拡大できることに、可能性を感じます。

もう一つ、Airbnb.orgを通しての支援のユニークな側面があります。それは「地域に経済的な還元ができる」ことです。Airbnb.orgの支援の仕組みにおいては、手数料を免除しているのですべての支払いが地域のホストに直接払われます。

実際の支援を通してわかったのは、災害などが起こったとき
「なるべく(自分の家がある被災地から)あまり離れていない場所に避難したい」という人が多いことです。隣町などに避難するわけですがそこも程度に差はあれど、災害によって観光客が減るなどの経済的なものをふくめ、被災の影響は受けています。そこで、私たちの支援の仕組みによって、被災した地域・近隣の地域で生活する人にお金が入るということは、家族を養い、住宅ローンを支払いながらその土地で生活を続けられる人を増やすということです。結果、その地域にお金がおちることになります。これはまたもう一つの地域にとっての利益になる。

今回のBOSAI VOICEの取り組みでは、昨年の能登半島の地震発生の際に、Airbnbなどの民泊を利用した二次避難先の提供支援をおこなった方に話を聞きましたが、被災者にとって、一時的にでも安心・安全を感じられるステイ先があり「今後、生活を立て直すために、考える時間と場所があること」はとても大きいのだと言っていました。
経済的な還元という点で、そして被災した後の生活・人生に関わるという点からも、民泊を利用して避難先として機能させる支援は、一時的ではなく中長期的なものにもなりますね。

災害で家を離れなければならないのは、トラウマにもなるような出来事です。そんななかで、お子さんのいる方、ペットのいる方、あるいは祖父母のいる方にとって、指定先の体育館のような避難所での生活に困難を感じていたら、自分の状況を整理することも難しいと思います。キッチンがある、プライバシーがある、そういった「生活を送れる」場所で、たとえ1週間だけでも過ごすことができれば、安心感・安定感を得られます。そうやってはじめて、自分が次に何をするべきか考えることができますよね。
Airbnbは、何千もの予約処理が即座に可能な唯一のプラットフォームです。災害対応に関わることで、多くの被災者の方々の状況の改善に貢献することができます。

いくつか、実際に支援を受けた人のストーリーを、Airbnb.orgのウェブサイトで読みました。避難先を得るだけでなく、その家のホストや近隣の人たちの暖かさも大きかったという声も多いですね。感情への支援といった側面もあると感じます。

Airbnb.orgの支援に関するストーリーは、こちらから読めます。
https://www.airbnb.jp/e/airbnb-org

Airbnbにはもともと、縁もゆかりもない人を自分の家に招き、町を案内することを楽しむ人たちが多いのです。

今日、ちょうどAirbnb.orgの支援を通じてゲストを受け入れたロサンゼルスのホストと話をしました。9歳と11歳の子どもと犬がいて、さらに母親は妊娠39週目という家族。もうすぐ赤ちゃんが
生まれるというタイミングで、(今回の山火事で)家が焼けて、すべてを失ってしまったということでした。ホストは子どもたちに贈り物を探しにいったり、食事も提供したそうです。「屋根と壁がある場所」というサポートをはるかに超えたものです。人のあたたかさ、寛容さ、誰かのために何かをしたいという思い。これも、Airbnbというプラットフォームが持つ、最大の価値の一つだと思います。これを、いままでにない形で支援に活かしていきたいと考えています。






Photo via Airbnb.org
実際に避難先として滞在した、世界各地のさまざまなゲストたち。

ADVICE VOICE

クリストフ・ゴーダー
(Christoph Gorder)

さまざまな非営利団体、政府機関、事業者と連携し、災害や紛争などの緊急事態発生時に一時的な避難先や滞在先を無償で提供することを目的とした米国非営利団体、Airbnb.orgの最高責任者。

2023年にAirbnb.orgへの参画前は、「charity: water」のチーフ・グローバル・ウォーター・オフィサーとして10年以上活動し、22か国にわたる組織の拡大を指揮。1500万人以上の人々に清潔で安全な水を提供する支援を続けてきた。また、最初のキャリアである14年間を健康と開発に焦点を当てた世界的な非営利団体「Americares」で過ごし、大規模災害対応の指揮や医療プログラムの管理を監督。
クリストフは、中央アフリカ共和国とナイジェリアで育ち、現在は妻と二人の子供と共に米国ユタ州に住んでいる。